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一hashime 箒・籐巻職人 小林研哉さん
インタビュー

2024.08.19

「TISTOU WAREHOUSE STORE」のオープンにあわせ、新たにスタートした「Beauty in Broken Object」。

このプロジェクトを始めるきっかけとなった箒・籐巻職人の小林研哉さんの工房に伺い、TISTOU代表の平田倫子と静岡で倉庫管理を担う増井教博が、プロジェクトのはじまりや目指すこと、そして小林さんのものづくりとの親和性を語ります。

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ーTISTOUは静岡に本社があり、小林さんも静岡に工房を構えていらっしゃって、ご縁を感じるプロジェクトですね。

 

平田(以下、平田) TISTOUとして挑戦でもある今回のプロジェクトに小林さんの手をお借りできるのが心強いです。ちなみに今回のキーマンといえるのが、TISTOUの静岡本社で倉庫管理のマネージャー兼営業を務める増井。彼が入社したきっかけはDOMANIで、社内で最も“DOMANI愛”に溢れた人。小林さんと共にDOMANIのものづくりの価値を広めたいという彼の熱い思いから、このプロジェクトがスタートしたんです。

 

増井教博(以下、増井) 小林さんのことは、僕の家を設計してくれた建築家の横山浩之さんのInstagramで知りました。住宅の柱や手すりが籐で巻かれているのが素敵で、それを手掛けたのが小林さんだと。「箒の職人さん!?」ってびっくりしました。

 

小林研哉さん(以下、小林) 初めて増井さんが工房にいらっしゃったとき、いい意味で「やばい人が来たな」と思いました(笑)。古い三菱のミニキャブに乗って、その帽子(つばを短くカスタマイズした近鉄バッファローズのキャップ)を被っておられたので。

 

平田・増井 (笑)

 

小林 その後、増井さんとDMでやりとりをするなかで、ベルギーのCEOにプレゼンするとおっしゃっていて、大事になってきちゃったなぁと、緊張が走りました。

 

平田 増井も緊張していました。オリジナルに手を加えることはブランドとしても初の試みなので。でもDOMANIのジノはとても喜んでくれました。「それ、僕が買いたいよ!」って(笑)。ゆくゆくは、DOMANIが認めた証として「Beauty in Broken Object」のロゴを入れて、このプロジェクトに込めた思いを広めていきたいです。

 

増井 小林さんが初めてDOMANIを見たときの印象はいかがでしたか?

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小林 率直にかっこいいと思いました。恥ずかしながら、僕はアートやデザインの知識がなく、DOMANIも知りませんでした。だからこそプレッシャーなく取り組むことができたと思っています。だけど今日、いろいろとお話を聞いたら重圧を感じてしまいそうです(笑)。

 

増井 いえいえ、僕はこれからが楽しみでしかないです。

祖父のものづくりの技術を受け継いだ

一hashimeの籐巻・箒

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ーはじめに、小林さんが箒と籐巻の職人を目指したきっかけを教えてください。

 

小林 屋号の「一hashime」は祖父の名前なんです。漢字で数字の一と書いて「はしめ」。母方の祖父で、福島県西会津でつる細工と箒の職人をしていました。いわゆる“職人さん”で無口な人でしたね。祖父の家に遊びに行くと、家には様々なホウキやかごが置かれていました。

 

母は5人兄弟でしたが、祖父の仕事を継ぐ人がいなかった。25歳の時、僕はそれが「もったいない」と感じて、つる細工を祖父に教わるようになりました。ひと通り自分で作れるようになったころ、祖父が体調を崩してしまって。会いにいくと、祖父は「箒の材料が余ってるから箒を作れ」と。なぜかその言葉が心に残って。祖父が亡くなった後、まずは近所のおばあさんに箒づくりを教わりに行き、さらに学びたいと神奈川の箒職人の山田次郎さんのもとで修行をさせてもらうことを決めました。入社後はホウキモロコシの栽培から始め、その合間を縫って箒づくりを教わり、計7年間修行させてもらいました。

 

ー小林さんは材料となるホウキモロコシの栽培も自ら手掛けていらっしゃいますね。

 

小林 ホウキモロコシは箒を作るためだけの素材なので、基本的には箒職人が材料を自家栽培しています。修行先では職人の体に少しでも農薬の影響がないようにと無農薬で栽培していたので、僕もそれを踏襲しています。師匠は80代後半ですが、ホウキモロコシの栽培も箒づくりも現役でやってらっしゃるんですよ。

 

平田 ホウキモロコシの栽培から箒づくりが始まるんですね。

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小林 そうなんです。4月中旬から5月までに種まき、8月初旬から9月まで収穫をします。その時期には2、3mほど伸びて先端から穂が出てきます。1本1本手で収穫し、その日のうちに脱穀して天日干しをします。栽培方法としては難しくはありませんが、無農薬で育てているので除草作業が必要で。今、畑を3カ所借りているので手間がかかりますね。その収穫高で一年で作れる箒の量や種類が決まります。茎が50cm以上のものを使った箒は、年間5本程度しか作れない場合もありますね。

 

増井 小林さんが作る箒はデザインも素敵です。洋服の掃除やペットを撫でるなど用途もさまざまで。 

 

小林 ありがたいことに、アウトドアやクラフトのイベントにお声がけいただけることが多く、それをきっかけにできた形も多いです。アウトドア好きの方はテントの掃除、家具職人さんはカンナがけ後の掃除に使うとか。でも基本的に用途は決めていないので、持って触っていただいて自由にお使いいただけたらと思っています。

籐継ぎがつなぐ、DOMANIのものづくり

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ーー「Beauty in Broken Object」で用られる「籐巻き」の技法は、小林さんが独自に編み出した技法でしょうか?

 

小林 もともとは、お付き合いのある浜松の器店「ニワノアイダ」さんから、割れた器を籐編みで修復してみてほしいと依頼があって。無茶振りだなぁ(笑)と思いつつ、割れた箇所を接着して、穴を開けて籐編みで継いだのがはじまりです。その後、京都の個展で、作家のうたたねさんのお皿を籐継ぎして出品したところ、反響をいただいて。籐なので食べるものを盛り付けることは難しいのですが、思い入れのある器を捨てずに済むのはいいですよね。

 

平田 目を引くのでセンターピースとしてもいいですよね。こちらの穴はどうやって開けるのですか?

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小林 リューターという機械を使います。最初に直径1mm程度の小さい穴を貫通させ、その後少しずつ削り、最終的に3mm程度に広げていきます。この工程はいつも緊張しますね。その後に巻きの工程です。籐を水に浸して柔らかくしておきます。巻き始めて、乾いたら都度霧吹きで濡らし、常に柔らかくしながら巻いていきます。

 

増井 奥様のInstagramに「夫は巻けないものはない」と投稿していたのが印象的でした。本当ですか?(笑)

 

小林 バイクや自転車のフレーム、カメラのフラッシュ、鼻毛切りばさみまで、いろいろとやらせていただいています。でも建築に絡むものは根気が必要ですね。手すりは3mあったりしますので。逆に根気さえあれば、何でも巻けると思っています。

 

平田 巻き方も様々な種類があって、表情が違うのが面白いです。 

 

小林 虫かがり巻きや蝶巻きのように名前が付いているものもありますが、文献で小刀や昔の銅製のやかんに用いられていた巻き方を参考にしたり、博物館に展示されている古いものを見て、応用して考えたりしています。

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ー「Beauty in Broken Object」では「鎹継ぎ」もオーダーできるんですよね。

 

小林 鎹継ぎは接着剤で継ぎ、その継ぎ目の両脇に貫通させない深さの穴を開け、真鍮のかすがいを打ち込む手法です。僕の場合、かすがいは装飾の意味合いが強いですね。穴を貫通させない分、気を遣いますね。実はこれは昔の中国の技法で、かつては卵白で接着していたようです。

 

増井 この技法もどこかで?

 

小林 自分で文献を調べたりもしましたが、中国の映画のワンシーンからヒントを得ました。ニワノアイダさんに教えていただいたのですが、チャン・ツィイー主演の「初恋のきた道」や、名前を忘れてしまったのですがアクション映画にそういうシーンがあるよと。

 

平田 DOMANIのものづくりに通じますね。実はこの「Minsk」は日本の楽焼の技法を応用して作られているんです。DOMANIがこれを作った当時、ベルギーには楽焼の技法を知る術がなかったけれど、日本の焼き物に関する文献を調べて自分たちなりに解釈したんだそうです。

 

小林 面白いですね! 実は今、ガラスにも挑戦しているんですよ。

 

増井 それは楽しみですね。Henry Deanのガラスのフラワーベースもぜひお願いしたいです!

一hashime×DOMANI

​工芸的なアプローチを融合させて

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増井 僕は2019年に初めて、ハンガリー・ペーチにあるDOMANIの工房に行って、DOMANIへの思いがさらに膨らみました。たとえば「Lava」は手でパターンを付けていくことは知識としてありましたが、職人さんたちが大きな型の内側に粘土を手でペタペタと付けているのを見ると、こんなにも人が手を動かしているんだと衝撃を受けて。窯で一度に焼けるのがたった数個だったり、出来上がるまでに1カ月を要するものもあるんです。

 

平田 それと、箒づくりがホウキモロコシの栽培から始まるように、DOMANIのプランターも土づくりから始まるんです。ヨーロッパ各地の砕土場に行って、それぞれのプランターに合う土を選んで、デザインや釉薬との相性で使う粘土を変えているんです。

 

小林 まるで陶芸家みたいですね。

 

増井 そうなんです。プランターを作るのに、これほど労力をかけているブランドは少ないと思います。でも焼き物は繊細なので、不純物が少しでも入っていたり、気候の変化によって、焼き上げた直後は問題ない場合でも輸送途中にヒビが入ったり。それと人の手で作るということは、多少の色ムラや凹凸、歪みが生まれたりもする。それが個性なのですが、日本の市場では受け入れられない場合も多い。

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平田 約26年前にDOMANIを日本に紹介し始めたころ、百貨店でDOMANIを受け入れてもらうのは難しかった。量産品のような均一性を求められることが多かったので。それなら私たちの話を理解してくれる人にだけ伝えていこうと頭を切り替えました。おかげさまで、フローリストやグリーンショップなどを中心に、本当にデザインやモノが好きな人たちにDOMANIを知ってもらえたと思っています。最近は百貨店からお問い合わせをい

ただくことも増えました。市場が少し変わってきたのかもしれませんが、それでも私たちは伝え続けなくてはいけないと思っています。

 

ーーー「Beauty in Broken Object」はそうした日本の市場に対する問題提起であり、TISTOUの思いを伝えるプロジェクトなんですね。

 

増井 コンテナが本社に届くとスタッフみんなで検品するんですが、割れているのを見つけるとテンションが下がります……。DOMANIがどんな思いをもって、手間をかけて作っているかを知っているから。小林さんの力をお借りできれば、プランターは再び命を吹き返すことができる。

作家さんが手掛けた器って、一点ものでなかなか買えなかったりするけど、DOMANIのプランターはずっと買えるんです。あんなに手間暇かけてプランターを作って、世界に届け続けている。僕にはそれが商売を度外視しているようにも感じられるんです。

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小林 続けることって、一番大変ですよね。

 

平田 DOMANIのプランターは、クラフトとプロダクトの間にあるような存在なんですよね。常にいいものを作ろうという姿勢をもつ、その人となりも素晴らしいんです。

 

増井 小林さんならではの工芸的なアプローチが共鳴することで、DOMANIのものづくりの軸を伝えていけるんじゃないかと考えています。

 

ーーーベルギーに「Beauty in Broken Object」が逆輸入されることもありそうですね。

 

平田 ベルギーだけでなく世界に広まっていくかも。でも、小林さんだけができる技術だから、手が回らなくなっちゃうかも。夏はホウキモロコシの収穫で忙しいし……。

 

増井 その時は僕が、除草と収穫のお手伝いに行きますね!

写真:牧田 奈津美

執筆:古山 京子

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