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​04.

東京と大阪の2拠点でお花の教室『RAFFINEE-les fleurs-(ラフィネ -レ フルール-)』を主宰する金山幸恵。前編に続き、後編では彼女が花の道へ進んだきっかけや大きな影響を与えたパリでの花修行についてご紹介します。

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TISTOU 代表のヒラタミチコです。

25 年前に花屋になる夢を諦めて TISTOU をはじめました。そんな私が大好きなフローリスト、フラワーアーティストの皆さんにフワラーベースの使い方や、花を活けるコツ、そして花人生についてインタビューしました。

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interviewer : Michiko Hirata

photo : Joji Okamoto

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ネジ工場でのOLライフ 

この日は天気が良かったので、すべての撮影が終わった後、アトリエの目の前にある新宿御苑を散歩しながら、インタビューの続きをすることにした。紅葉が色づいた苑内は、思い思いの場所で過ごす親子連れやカップルで賑わっていた。

 

「パリに行けないと、心にほつれがいっぱい出てくるような感じがして。でも日本でも、公園や美術館で過ごすと、パリにいる時と似た感覚になるから、できるだけ行くようにしてる」。幸恵はそんなふうに、花の仕事に携わるまでの話を始めた。

 

短大の英米語学科で英語を学んだという彼女だが、当時は外国に興味があったわけでもなく、なんとなく洋楽ブームみたいなのもあって、英語を学ぶことにしたという。

 

「特にやりたいこともなくて、卒業後は大阪のねじ工場で働いていた。9時半から17時までの勤務で、待遇もお給料もよくて。16時半からは特にすることもなく、17時ピッタリに会社を出てたな。勤務中、帰りに買うショッピングリストを作っててんけど、その中にいつのまにか“花”が入るようになって、花屋に行くことが楽しみになってた」。次第に幸恵は、花よりもそこで働いている人たちに興味がわくように。花を選んでいるふりをしながら、働いている人たちを観察していたという。「自分もあちら側の人間になりたいという想いがどんどん強くなった。けど、当時は情報がなく、どうやったらお花屋さんになれるか分かれへんかった」。

 

最終的には求人雑誌で花屋の募集要項をチェック。必須条件だった運転免許を取得すると共に、会社に勤務しながら1年間フラワースクールに通った。日本で唯一のフラワーデザインの国家資格、フラワー装飾技能士1級も取得。フラワー装飾技能士は、都道府県職業能力開発協会が実施する検定試験で、ブライダルブーケの製作を始め結婚式やお葬式の装飾などの知識と技能を、学科と実技の試験によって認定するもの。

 

「今やっているスタイルとはぜんぜん違うけど、当時は選択肢がなかったから、週一で教室に通って、花の装飾の基本と言われているものを必死で練習したよ(笑)。今は感じるままに花を活けてるけど、教室に通ったこと、国家資格の受験、その後10年間も働かせてもらった花屋での経験、そのすべてが今の自分につながっていると思う」。

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大手花屋での10年間、そしてパリへ 

念願の花屋で働く毎日はとにかく楽しかったという。「心斎橋の地下鉄の改札前で、百貨店に隣接した場所にあった花屋に配属されて。とにかくなんでも飛ぶように売れた時代やったから」。その後も、店長として不採算店舗の立て直しを任されたり、北海道でブライダル業態を担当したりと、花屋としてのキャリアを順調に積んでいく。最終的には、10店舗を束ねるチーフとして、数字の管理や人事を任されるように。

 

チーフの仕事はやりがいがあり、上司から認められることは楽しかった。だが、多忙を極める毎日の中で、次第にもう一度花と向き合って仕事がしたい、そして、パリで花の勉強をしたいという想いが強くなっていった。

 

「浪速っ子的には、なんとなく恥ずかしくてパリに行きたいって誰にも言い出されへんかった」という幸恵。パリに行くまでに2年の歳月を要したが、その間に300万円の貯金を蓄え、職場の上司や斎藤由美さんのサポートを得て、2008年にパリへと渡った。

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パリにて初心に帰る

「今は仕組みが変わってしまったけど、フランスの花屋研修制度を利用して、3つのお花屋さんで2、3ヶ月ずつ働かせてもらってん。私の場合はお給料なしで、勉強させてもらうって感じ。スケジュールは相談して、自分が希望する曜日に行けばいいし、仕事がなければ『サチエ、そこで本読んでいていいよ』とか、緩かったな(笑)。仕事のない日はパリの有名フローリストのレッスンを受けたり、まあまあ積極的にしてたな」。

 

オテル・リッツ・パリ(Hôtel Ritz)の装飾や有名花店での研修を経て、様々な場所でパリの花に触れた幸恵。

「一緒に働いていたパリのフローリストたちは、みんなとっても楽しそうやったのが印象的。パリに来て初心に帰れたというか、ものすごく花を愛おしく感じて。葉っぱ1枚1枚が大事に思えて、茎はここで切ってええんかな?と立ち止まれたりして、OLの時に花を見ていた頃に戻れた気がした。何するにも新鮮で、感動的で、楽しかったし、もっと花を楽しんでええんやって思えた。日本の花屋で接客していた時は、お客さんが求める花を早く作らなあかんかったけど、フランス人はもう少しおおらかで寛容。花屋を職人として見ている感じやから任せてくれるし、良かったら褒めてくれる。だからフローリストは、いつも自信をもって自分らしいものを作れる。花の色や質感の合わせ、自分の作品への自信が凄いなって思った」。

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この日をはじめ、いつもTISTOUの撮影をお願いしているフォトグラファーの岡本譲治氏も、かつてパリでの生活を経験したひとり。「滞在中に友人のギャラリーで1週間ほど写真展を開催したんだけど、通りかかった人みんなが作品を見て、ひと言感想を言ってくれて。その中には、近所のホームレスのおじさんもいたりして、パリの人たちの美しいものへの興味には、本当に感心したな。芸術は分からないってひと言で片付けず、自分なりになにか言ってみる。花に関してもそうだよね。日曜日は市場の花屋の前に長蛇の列ができるくらい、みんな普通に花を買って自分で活ける。とにかくやってみる、言ってみる。みんなが自分の芸術性に自信を持っているところがパリだなって思う」(岡本氏)。

 

農林水産省が実施したアンケートによると、日本人の20代から40代の女性の90%以上が花のある生活をしてみたいと思っているが、75%が「自信がない」と回答していて、花や花のある暮らしに興味はあっても「知らない・わからない」というコンプレックスのようなものが障壁になって、花を買うことをためらう人が多いとのこと。フランス人のように自信をもってとにかくやってみることが大事なのかもしれない。

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影響を受けた2人の人物

幸恵がパリ生活を語る上で欠かせない人が2人いる。そのひとりは、現在、オデオン広場で「Rosebud fleuristes」を経営するヴァンソン・レサール氏。彼が以前勤めていた店で3ヶ月の研修期間を過ごしたのがきっかけだ。当時、オデオン駅にほど近い店の大きなウィンドウをディスプレイするのが彼の日課で、幸恵はそのディスプレイ替えをいつも一番近くで見ていた。パリでも特に感度の高い人が集まるこのエリアは、たくさんの人が往来する。かなりの大役だが、彼はそんなことは気にもかけず、鼻歌を歌いながら、想像もつかないような見事なアレンジを作り上げ、幸恵は驚きと感動を覚えたという。

 

「ある時、ヴァンソンに『なんでこの松とクリスマスローズ合わせたん?』って聞いたら「『きれいだから』って、とってもシンプルな答えが返ってきた。彼のスタンスはいつもそんな感じ。それで、『花は最初からきれいやから、“面白い”とか“悲しい”とか、自分の感情を作品に入れてあげるといい』とも。フランス人は感情を表現することが上手。技術的、理論的なことじゃなくて、いちばん大事なのはいつでも感情なんやなっていうことを教わった気がする」

 

幸恵の心に深く残る彼の言葉がある。幸恵が作った花束に対する意見を求めた時のことだ。「『幸恵がきれいと思うならきれい。そうじゃないならもう一回やり直せば?』って。私が花を作る時、まずは自分自身が気に入らなくてはならない。それは、生徒さんにも伝えたいといつも思ってる」。

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そしてもうひとりは、私と幸恵を引き合わせてくれた斎藤由美さんだ。パリ在住20年以上の由美さんは、日本にパリスタイルの花を広めた第一人者の一人だ。

 

パリに行くことを決め、会社に退職の意向を伝えた幸恵。心配した上司が、取引のあった花の学校へ、一緒に相談に行ってくれたのだという。「由美さんはその学校で講師を務めたことがあった。パリにいるから訪ねればええって言ってもらい、由美さんにも私のことを頼みますってお願いしてくれて。その後、由美さんが日本でレッスンをするという話を聞いて、レッスンを受けに行ってん。芦屋やったかな。今でも忘れられへんねんけど、そこでアマリリスのブーケを束ねてん。初めてだったから茎がバキバキに割れて、冬やのに大汗かいた」。その後の食事会で由美さんの前の席を陣取って、ぐいぐいとパリについて聞いてみたそうだ。あとから由美さんにそのことを覚えているか尋ねると、「でっか目した子がこっちをじーっと見ていてびっくりしたわー」と。それから由美さんは、幸恵のことをずっと気にかけてくれている。

 

「パリに行ってからも、オテル・リッツ・パリの装飾ではずっと由美さんの下で働き、多くのことを教わったし、ヴァンソンを始め、たくさんの人たちとの出会いを作ってもらった。なにより、フランスの文化をより深く知るきっかけを与えてくれた。私の人生に欠かせない人」。

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パリという場所で、就労ビザを取得して滞在することは、おそらく皆が考えているよりも容易ではない。パリだけではなく、自分が国籍を有しない国に滞在して仕事をする過酷さは、当事者になって初めて気付かされる。私もドイツとベルギーで就労ビザを取得したが、とにかく大変だった。存在さえ否定されることもある環境下では、強い信念を持たなければ、そこで生きていくことは難しい。そんななか由美さんは20年以上、花業界の第一線で活躍してきた。花にも、生きることにも常に真摯に向き合う由美さんは、年を重ねるごとに輝きを増している。

 

「ずっとヴァンソンと由美さんの背中を追いかけてきたけど、最近は自分らしい花を作りたいと思ってる。2人の花が違うように、私にしかできないパリスタイルを確立することが、今の目標かな。ちょっとおかしいかもしれないけど、すごく日本を意識しながらパリスタイルを作っていけたらな、と思ってる」。

 

日本には日本の美しさがある。ここは日本だし、私たち日本人はこの国で生きている。そして花を飾る場所は日本だ。幸恵のパリスタイルが、これからどんなふうに進化していくのか、本当に楽しみだ。

これからフローリストを目指す人へ

現在、『RAFFINEE -les fleurs-』を主宰し、フラワーレッスンを通して、生徒さんたちに花の楽しみを伝え続ける幸恵。だが本当は、今でも花屋をやりたいと強く思っているのだとか。「大阪でも東京でも、他の場所でもええかな。そんなに簡単なことじゃないけど、店頭に花が並んでいて、ええ香りがして、道ゆく人が足止めて、『これください』」『長さはどうしますか?』ってやりとりがしたい。今世では幸恵先生として人生を全うすることになりそうやけどな。でも、おばあちゃんになってから、街の花屋になるっていう選択もあるかも。花の仕事は力仕事が多いし、労働条件もけして良いとはいえないし、実際に花に触っている時間ってほんまに少ないけど。でもな、花の仕事、楽しいで」。

 

私は、おばあちゃんになった幸恵が、公園の脇に佇む花屋の店先で、たくさんの人に花に触れる幸せを伝える姿を、すぐに想像できる。なぜなら、彼女が花や自然に触れて「うっとり」している姿を見ると、心から幸せな気持ちになるからだ。

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金山幸恵

RAFFINEE -les fleurs-主宰

 

大阪生まれ。OLから花屋に転身後、関西の大手フラワーショップに10年間勤務。店舗運営をはじめブライダルやホテルの装花に携わり、10店舗をまとめるチーフを務める。

 

2008年、花に真正面から向き合うためにパリ花留学へ。

 

パリ在住のフラワーデザイナー、斎藤由美氏、パリの人気花店「Rosebud fleuristes」のヴァンソン・レサール氏をはじめ、トップフローリストのもとで修行し、研鑽を積む。

 

2009年から「RAFFINEE -les fleurs-」として活動をスタート。フラワーレッスンの他、フラワーショップや企業向けフラワー講習、スタイリング、ブライダル装花のデザイン提供なども行う。一方で、現在も年に1度、1ヶ月以上渡仏し、ブラッシュアップを続けている。

HP:https://raffineelesfleurs.com
Instagram:@raffineelesfleurs

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今回の撮影で使った Henry Dean と使用した花材 

1.Stromboli S / カブ(D12 H21)¥13,800

ラナンキュラス、スカビオサ、アカシア・パープレア、白樺

2.Akiko L / ギルテッドホワイト(D21 H21) ¥9,200

シクラメン、ユーカリポプルス、コニファー・ブルーバード、コチョウラン

3.Joe / グラヴィエ(D12 H21)¥5,200
フウセントウワタ、チョコレートコスモス、スカビオサ、アマランサス、パフィオ、アップルミント

4.Rome(D 6.5 W11 H16)¥22,500

野バラ、アカシア、グロリオサ、アマランサス